ChatGPTの登場以来、AI業界は急速に進化を遂げてきました。
しかし、その多くは「質問に答える」「文章を作る」といったアシスタント的な役割に留まっていました。ところが、2025年3月頃から話題となっているAIエージェント「Manus(マナス)」は、その常識を根底から覆そうとしています。
単なるチャットボットではない――自律的に行動するAIの衝撃
Manusを開発したのは、中国発のスタートアップ企業です。以前、ブラウザ拡張機能として人気を博した「モニカ」というAIツールを開発したチームが、新たなプロダクトとしてManusを世に送り出しました。
創業者は既に一度会社を売却してイグジットを経験している連続起業家であり、AI業界における確かな実績を持っています。現在、本社はシンガポールに置かれています。
Manusの最大の特徴は、指示に対して「文章を返す」だけでなく、「実際に行動する」点にあります。
例えば、「今日の話題のAIニュースを調べて、Xに投稿を作って下書きに保存して」と指示すれば、Manusは自らブラウザを操作し、ニュースサイトを巡回し、情報を収集し、ログイン情報を使ってSNSにアクセスし、投稿文を作成して下書き保存まで完了させます。これらの一連の作業を、人間が介入することなく自動で実行できるのです。
さらに驚くべきは、この一連のタスクを「定期実行」できる点です。毎朝9時に自動でニュースをまとめてXに投稿する、毎週月曜日に営業リストを作成してメールを送信する――こうしたルーティンワークを完全に自動化できる時代が、すでに到来しています。
ChatGPTを超える多機能性――Manusができること
Manusのインターフェースは、一見するとChatGPTに似ています。しかし、その機能の幅と精度は、従来のAIツールをはるかに凌駕しています。
エージェントモードによる複数タスクの同時処理
通常のチャット機能に加えて、Manusには「エージェントモード」という強力な機能が搭載されています。これは、複数のタスクを同時に処理できる機能です。例えば、「リサーチしてスライドを作って、画像も生成して」といった複雑な指示を一度に出すことができます。
Manusは人間のように、タスクを細分化し、優先順位をつけ、必要なステップを洗い出してから実行に移ります。単にコードを書くだけでなく、デプロイ(公開)まで自動で行うなど、「最後まで完遂する」という点が、他のAIツールとの決定的な違いです。
画像・動画・音声生成まで一気通貫
Manusは、画像生成にも対応しています。裏側ではChatGPTの画像生成APIやImagenなどの最先端モデルが使用されており、高品質な画像を瞬時に作成できます。
さらに驚くべきは、画像を作成した後、同じスレッド内で「この画像に音声をつけて動画にして」と指示すれば、自動的に動画化まで行ってくれる点です。ASMR動画のような、音声付きのコンテンツも簡単に作成できます。
動画生成にはVeo3などの高性能モデルが使われており、音声生成も自然な仕上がりです。クリエイティブな作業のほとんどを、Manusだけで完結させることが可能になっています。
資料作成の精度はピカイチ
Manusが特に高く評価されているのが、プレゼンテーション資料の作成機能です。単にスライドを作るだけでなく、デザインの完成度が非常に高いのが特徴です。
実際の使い方としては、まずChatGPTのDeep Researchなどでリサーチを行い、その内容をスライドごとにまとめてからManusに投げると、より精度の高い資料が作成できます。20ページを超えるような本格的な資料でも、デザイン性を保ちながら作成することができます。
作成した資料は、PowerPointやPDF形式で出力できるため、そのままプレゼンに使用したり、編集を加えたりすることも可能です。
グラフやチャート作成も文字化けなし
データの可視化においても、Manusは優秀です。「世界のAIツールの導入状況をグラフ化して」といった指示を出すだけで、Pythonのサンドボックス環境で自動的にコードを実行し、美しいグラフを作成してくれます。
特筆すべきは、日本語や中国語などのマルチバイト文字でも文字化けしない点です。ChatGPTでグラフを作成すると日本語が豆腐(□)になってしまうことがありますが、Manusではそうした問題がほとんど発生しません。
Manusの真骨頂――ブラウザ自動操作という革命
Manusが他のAIツールと一線を画す最大の理由、それが「ブラウザ自動操作」機能です。これは、ChatGPTのOperatorモードよりもはるかに精度が高く、実用的だと評価されています。
ログインして勝手に作業してくれる
Manusにログイン情報を渡すと、実際にウェブサイトにログインして操作を行ってくれます。例えば、ソーシャルドッグ(X投稿管理ツール)にログインして、投稿を下書き保存するといった作業を完全自動化できます。
このブラウザ操作は、APIを使ったスクレイピングとは異なります。Manusは仮想ブラウザを開き、人間が行うのと同じようにページを視覚的に認識し、クリックし、文字を入力します。つまり、API連携が用意されていないサービスでも、ログイン情報さえあれば操作できるのです。
情報収集からコンテンツ作成、投稿まで一気に
ブラウザ操作機能の実用例として、X(旧Twitter)の自動投稿システムが挙げられます。
指示の例:「ソーシャルドッグにログインして、今日話題になったAIニュースをまとめて、いい感じでスレッド投稿を作ってください」
この一文だけで、Manusは以下のすべてを自動実行します:
- 仮想ブラウザを開く
- AIニュースサイトにアクセスして最新情報を収集
- 複数の記事を視覚的に確認し、重要な情報を抽出
- ソーシャルドッグにログイン
- 投稿フォーマットに沿ってスレッド形式の文章を作成
- 下書きとして保存
実際の動作を見ると、Manusがページの要素を認識し、文字を入力していく様子が分かります。この速度と精度は、現時点で他のAIエージェントツールを圧倒しています。
有料サイトのコンテンツも活用可能
ログイン機能を活用すれば、有料の情報サービスからもデータを収集できます。例えば、日経新聞などの有料ニュースサイトにログインして、特定のテーマに関する記事をまとめて資料化する、といった使い方も可能です。
また、オンライン学習プラットフォームのコンテンツを日本語化する、といった高度な作業も実現できます。実際に、Claude Code(Anthropicの開発者向けコース)の英語コンテンツを、Manusにログインさせて全ページを巡回させ、日本語のマニュアルとスライドを自動生成することに成功しています。
定期タスク実行で完全自動化を実現
ブラウザ操作と並んでManusの強力な機能が、「定期タスク実行」です。
毎日、毎週、毎月――自由に設定可能
Manusでは、作成したタスクを定期的に自動実行するスケジュールを設定できます。毎日、毎週、毎月といった頻度を自由に設定でき、実行時刻も指定可能です。
例えば:
- 毎朝9時に最新のAIニュースをまとめてXに投稿
- 毎週月曜日の午前中に営業リスト500社を作成してメール送信
- 毎月末にSalesforceに案件情報を登録
こうした定型業務を一度設定すれば、あとは完全放置で回り続けます。
X運用代行すら不要になる時代
定期実行とブラウザ操作を組み合わせれば、SNSアカウントの運用を完全自動化できます。
設定例としては、毎日決まった時間に:
- 特定のキーワードでニュースを検索
- 話題になっている記事を抽出
- フォロワーに響く形で文章を整形
- 投稿フォーマットに沿って作成
- 下書きに保存(または自動投稿)
これまでSNS運用代行に月額数万円を支払っていた企業も、Manusを導入すれば大幅なコスト削減が可能になります。
実務で使える活用事例7選
ここからは、実際にManusを業務で活用している具体的な事例を紹介します。
1. プレゼン資料の自動作成
YouTubeで情報発信している方にとって、Manusは最強のパートナーです。動画用の資料作成において、リサーチから画像挿入、グラフ作成まで、ほぼ一撃で完成させることができます。
従来は資料作成に数時間かかっていた作業が、Manusを使えば30分程度に短縮できます。しかも、デザイン性も高いため、そのまま使用できるクオリティです。
2. 営業リストの大量作成
Manusの「Wide Research」機能を使えば、500社規模の営業リストを一気に作成できます。
例えば、「AI企業で開発・研修・導入見込みがある企業」と指定すれば、企業名、住所、電話番号、代表者名、売上高、営業利益などの情報を自動で収集し、スプレッドシート形式でまとめてくれます。
ただし、この機能はクレジット消費が大きいため、初めて使う際は少数でテストすることをおすすめします。
3. 請求書・領収書の一括作成
エクセルやスプレッドシートに送付先と金額のリストを用意して、「このリストを元に請求書を作成して」と指示すれば、Manusは一気に5〜6枚の請求書や領収書を作成してくれます。
決算前や月末の処理で、大量の書類を作成しなければならない場合に非常に便利です。
4. X投稿の自動化
前述したとおり、ソーシャルドッグなどのツールと連携させることで、X投稿を完全自動化できます。毎日の下書き作成から、定時投稿まで、すべてManusに任せることができます。
5. Salesforceへの自動記載
CRMツールであるSalesforceにログイン情報を渡せば、案件情報の登録も自動化できます。「この案件情報をSalesforceに登録して」と指示するだけで、Manusがログインし、適切なフォームに情報を入力し、保存まで完了させます。
RPAツールを導入するよりも、はるかに手軽で低コストです。
6. 動画からマニュアル作成
動画ファイルをアップロードして、「この動画を元にマニュアルを作成して」と指示すれば、Manusは動画を視聴し、重要なポイントをスクリーンショットで抽出し、説明文とともにPDF形式のマニュアルを作成してくれます。
社内研修資料や操作マニュアルの作成が、驚くほど簡単になります。
7. ASMR動画などのクリエイティブコンテンツ
画像生成、音声生成、動画生成をすべて一つのスレッド内で完結できるため、ASMR動画のようなクリエイティブコンテンツも簡単に作成できます。
「リラックスできる森の風景画像を作って、自然音をつけて動画にして」といった指示だけで、一連のコンテンツが完成します。
知識機能でAIをカスタマイズ
Manusには「知識機能」というカスタマイズ機能があります。これは、自社のルールや業務フォーマット、口調などを登録しておくことで、Manusの回答や成果物をカスタマイズできる機能です。
例えば:
- 「弊社の資料作成では、このフォーマットに従ってください」
- 「私はこういう口調で話すので、文章もこのトーンで作成してください」
- 「スライド生成の際は、このプロンプトを必ず参照してください」
こうした指示を保存しておけば、毎回同じ指示を入力する手間が省け、一貫性のある成果物を得られます。
セキュリティは大丈夫?プライバシーポリシーを確認
AIツールを業務で使用する際、多くの方が気にするのがセキュリティです。
本社はシンガポール、データは学習されない
Manusの運営会社「Butterfly Effect」の本社は、中国ではなくシンガポールにあります。データの保存場所もシンガポールのサーバーです。
プライバシーポリシーには、「ユーザーのデータはモデルの学習には使用されない」と明記されています。これは現代のAIツールとしては標準的な対応であり、ChatGPTやClaudeなどと同じです。
自己責任での判断が重要
とはいえ、AIツールのセキュリティは最終的には自己責任です。重要な情報を入力する際は、一部をマスキングするなどの工夫をすることをおすすめします。
公式のプライバシーポリシーを読み、自分自身が納得した上で使用することが大切です。
料金プラン――あなたに合ったプランは?
Manusには、無料プランから有料プランまで複数の選択肢があります。
フリープラン
まずは無料で試してみたい方向けです。基本的な機能は使えますが、クレジット数に制限があります。
ユーザビリティの優れた、使いやすいツールなので、時間的なラーニングコストはほとんど発生しません。したがって、フリーでお試しというよりは、いきなり課金をして導入してしまう方が合理的です。
ベーシック・プラス・プロ
というわけで、本格的に使用する場合は、有料プランへのアップグレードがおすすめです。特に、資料作成を頻繁に行う場合、一度の資料作成で複数回の修正を行うと、あっという間に2000クレジット程度を消費します。(このあたりは、悩ましい部分でもありますが、クオリティが落ちるよりはマシかな?とも感じています。)
ベーシックやプラスプランでは、クレジットが足りなくなる可能性も否定できません。ともあれ、プロプランを導入する前に、単月でもいいのでベーシックを使うことを推奨します。それで手応えを感じられるようならば、プラスかプロを契約することをあらためて検討しましょう。
プロプランは結構な価格ですが、プランナーや、クリエイティブディレクターや、デザイナー1人を雇うコストと比較すれば、圧倒的に低コストです。(彼らに外注する場合もまた同様です)
毎週複数の資料を作成する方や、YouTube発信をしている方には、プロプランの契約を検討する価値があります。ちなみに私は他のAIも併用しているため、現状、プラスプランで対応できています。今後、プロプランも検討するかもしれませんが、前述の課題があるため、慎重に検討していきたいと考えています。
スマホアプリで移動中も指示出し
Manusにはスマホアプリも用意されています。移動中や食事前のちょっとした時間に、スマホから指示を出しておけば、到着する頃には資料が完成している、という使い方も可能です。
UIも使いやすく設計されているため、外出先でも快適に操作できます。
ChatGPTとの使い分け
Manusは非常に高機能ですが、すべてにおいてChatGPTを上回っているわけではありません。
通常のチャット機能については、ChatGPTの方が精度が高い場合もあります。単純な質問応答や文章作成であれば、ChatGPTを使った方が良いでしょう。
一方、資料作成、リスト作成、ブラウザ操作、定期実行などの実務的なタスクにおいては、Manusが圧倒的に優れています。
つまり、用途に応じて使い分けることが、最も効率的な活用方法と言えます。
まとめ――AIエージェントがもたらす生産性革命
Manusは、単なるAIチャットツールではありません。指示を受けて自律的に行動し、複数のタスクを同時にこなし、定期的に実行を繰り返す「AIエージェント」です。
これまで人間が数時間かけていた作業を数分で完了させ、毎日繰り返していたルーティンワークを完全自動化できます。使いこなせば、1日2時間以上の業務削減も十分に可能です。
資料作成から営業リスト作成、SNS運用、CRM登録まで、Manusができることは非常に幅広く、今後もさらに機能が追加されていくでしょう。
AIは「質問に答えるもの」から、「行動するもの」へと進化しました。Manusは、その最先端を走るツールです。まだ使ったことがない方は、ぜひ無料プランから試してみてください。きっと、働き方の未来を垣間見ることができるはずです。
図解解説
















